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一瞬、周りが静まり返った。
誰も言葉を発しない中、僕は笑い声をあげる。
「ははは、ずいぶんキレやすいんですね」
僕は無様に床に転がっていた。
痛いなあ。
僕は泣きそうだった。殴られたことではなく、他人に触られたことに。
キモチワルイ。
きっと頬は真っ赤だろう。祐樹になんて言い訳をしよう。
「気が済みました? 先約云々は祐樹本人に確認してください。さよなら」
殴った男子に笑ってみた。ああ、目をつぶったから涙がこぼれてしまった。
男子は何故か固まってしまい、僕は今度こそ誰にも邪魔をされずに校門に向かった。
校門についたら、やはり既に祐樹が待っていた。
「ごめん」
「優季!」
心配してくれていたのか、思い切り抱きしめられる。
「どこ行ってたの? 僕、すぐ抜けてきたのに」
「祐樹の荷物取るのに時間かかって……。ごめんね」
僕は祐樹に鞄を渡そうと体を離すと、みるみる祐樹の顔が怒りに歪んだ。
「誰がやったの?」
「祐樹のクラスメイトにちょっとね」
祐樹の手が僕の頬を優しく撫でる。
「名前は?」
「知らないよ、そんなの」
「まあいいや。潰しとくよ」
僕はそう返事した祐樹に笑った。
「わざわざ祐樹の手を煩わせる必要なんてないよ」
「僕の気が済まない」
「……止めてね」
くす。
心の中で笑う。
本当は殴られないように避けることだって出来た。
でもそうしたら、祐樹が怒らないでしょ?
クラスメイトを道具と見てるからって、やっぱり優しくするのは気に食わなかったから。
僕がクラスメイトのせいで怪我をすれば、祐樹は絶対怒る。そうすればクラスメイトへの態度も変わるだろう。
まあそんな僕の気持ちも分かっていたんだろうけど。だから本当は何か手を打つつもりだったはずだ。僕が傷つくことを何より嫌がる祐樹のことだから。
ただ、僕の我慢の限界が少し早く来てしまっただけで。
きっとクラスメイトと完全には縁は切ってくれないだろうけど、僕の為なら許してあげる。
次の日、僕を殴った男子は学校に来なかったらしい。
くすくすくす。
一応僕は止めたよ? 一応ね。
だからどうなったかなんて、知らない。
――だぁれも知らないよ。