体温(全1ページ/病み?/学生)


 全部、ぜーんぶ壊れちゃえ。
 いらないいらない。
 何も求めてないの。
 ただむかつくの。
 学校が、空が、人が、自分が。
「あなたは何がほしいの?」
 欲って何?
 こんな世の中にどうして欲しいものができるの?
「ねえ、答えなきゃ壊すよ?」
 本当は答えなんかいらないんだけど。

「君が欲しい」

 あなたは私が逃げられないように壁に追い詰める。
 逃げるなんて、そんなめんどくさいことしないのに。
「愛情なんていらない」
 何もかもが目障りなの。
 この目を潰してしまいたいくらい。
「俺もそんなのいらないよ。君が欲しいだけ」
「……私は何も欲しくない」
 私はあなたの首に手を伸ばす。
 消えちゃえ。
 あなたは抵抗することはなく、笑っていた。
 私がいくら力を入れても、あなたは苦しそうな様子はなかった。小さくて非力な女なんて、成長期のあなたにはどうってことないんだろう。身長のせいで重力の力も借りれないし。
「あのさ」
 あなたは困ったように笑うと、いとも簡単に私の手をほどいた。そのまま両手首を握られて私は何もできなくなる。
「試してみないか?」
「……何を」
 私はため息をつく。
 空気がなくなっちゃえばいいのに。
 そうすればあなたも私もさようなら。
「何も考えなくてすむ方法」
「…………」
「君は俺にまかせてくれればいい」
 何も考えなくていい。
 その言葉に少しだけ興味がわいた。
「壊すんじゃなくて、壊されるんだ」
 そんなこと、初めてだろ?
 耳元で誘ってくる低い声に、私は力が入らなくなってしまった。
「やってみれば?」
 満足できなければ、壊せばいい。
 またくだらない世界を呪う毎日を過ごすだけだから。
「うん。君はきちんと存在してるから。俺が証明するよ」
「?」
 ……ああ、疑問に思うのも面倒だ。

 あなたの指と私の指が絡まる。
 そこから、あなたの低い体温が伝わってきた。
 じゃあ、この指先から伝わってくる熱いコレは何?




 ……ああ、私ってここにいたんだ。


終?|home