game(全1ページ/過去持ち/男→女/学生)


 彼にとって、これはゲームだ。

「好きだよ」
 目の前で囁く彼は楽しそうに笑っていた。
「……そう」
「冷たいなあ。俺はこんなに必死なのに」
「貴方の遊びに付き合う気はないの」
「遊びじゃないよ」
 彼は真面目な顔をして言った。
「…………」
 本当に彼は気づいていないのかもしれない、と最近思うようになった。
 本気で恋をしているのだ、と思い込んでいるだけという事実にいつになったら彼は気づくのだろうか。
「一目惚れは信じないタイプ?」
「……――」
「え? 何か言った?」
「別に」
 かわいそう、と言ったんだよ。
「ねえ、君は一人が好きなの?」
「……嫌いではないよ」
「そっか。まあ、僕がいるかぎり一人にはしないよ」
「貴方は知らないの?」
「何を?」
「私がここにいる理由」
 私は保健室登校をしていた。体がどこか悪いわけでも、いじめを受けていたわけでもないけれど。
「知らないよ。君が話してくれるのを待っていたから」
「…………」
「やっぱり、まだ駄目? 言ってくれても、どうにかしようとは思わないけど」
「……え」
 てっきり助けてあげるよ、とかそんな甘い言葉を吐くのかと思った。
「ここを出ちゃったら、君を独り占めできないだろ?」
「……出ても、誰も関わろうとしない」
「どうして?」
「私には避けられる理由がちゃんとあるから」
 だから、可笑しいのは貴方の方。
「僕は絶対に避けないよ。だから、いつか教えて」
「…………」
「また、来るね」
 扉が閉まる音が聞こえる。
 私は大きく息を吐いた。
「ばっかみたい……」
 彼の言葉は甘く甘く私を侵してゆく。
 私は彼を好きでも嫌いでもない。だけど、彼の発言や行動はとても魅惑的だった。
 今まで彼に騙された女なんて、ただの馬鹿だと思っていた。彼のそういう噂がたっても、彼がくれる愛を信じるなんて。
「ほんと、きついな……」
 流されそうになっている自分がいる。
 好きになった瞬間、捨てられるのは分かりきっているのに。
 彼は好きになったと錯覚した女の子に声をかけて、仲良くなって、最終的には必ず付き合った。でも、彼の愛はそこで終わり。
 きっと彼にとって恋愛は、女の子を自分に振り向かせられるかのゲームだ。付き合った瞬間、あっという間に冷めて捨てられる。
 それでも付き合いたくなるのは、そこまでの彼からの愛をあまりにも本物に近いものと感じてしまうから。
 早く、飽きて離れていってほしい。
 抜け出せなくなる前に――。


「好き、大好き」
「……私も」
 私は自分に嘘をつく。
 次の日、私は彼の言葉を受け入れた。
「ほんと、幸せだ」
 本気になる前に付き合って、捨てられればいいと気づいた。
「……スキ」
 この言葉の意味を私は理解できなかった。

 それから数週間経ったけれど、別れ話をされることはなかった。
 私は限界だった。これ以上は堪えられない。
 だから、逃げた。彼がいないところへ。
 嫌嫌嫌、捨てないで、置いていかないで。


「見つけた」
「……どうして、何で別れてくれないの?」
「好きだから」
「今までの子とはすぐ別れたじゃない……」
「君とは別れたくないと思えたから、別れてないよ。君が言ってた"本気"ってこういうことだろ?」
 ああ、駄目だよ。
「君は僕が嫌いになったの? ……それとも、初めから好きじゃなかったの?」
「……スキ、だよ」
 貴方に捨てられたら、死ねるくらいには。
「じゃあ、いいだろ? そろそろ名前くらい教えてよ」
 名前を言えば、もう戻れない。
 そんな時、私の携帯が光る。
 ……メール?
 私に連絡する人なんていないはずなのに。
 不審に思いながら送り主を確認すると、そこには絶対にありえない人の名前が表示されていた。
 いたずらか、とメールを開けると、本文にたった一言だけ。

『愛してるよ』

 ああ、何やってるの。
 私は思わず笑った。
 すると、彼は不機嫌そうな声をあげた。
「僕は君のアドレス知らないのに」
「だって名前がばれるでしょ」
「今は?」
「いいよ、交換しよう」
 あっさり決意できた。
 彼に捨てられたら、本当に消えてしまおう。
 あっちでお姉ちゃんが待ってるみたいだから。


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過去編いつか書けたらなと思ったりしてます。