優しさ(全1ページ/GL/片思い/高校生/夕視点)
叶わないことは最初から分かっていたんだ。 ある放課後。 私は教室の窓から外を眺めているクラスメイトを見ていた。 クラスメイトは近づいてくる私に気づかない。それほどまでに、ただ外を見ていた。 そこから"彼"が見えるのだろうか。 嬉しそうでも哀しそうでもない。ただ、何か動くものをじっと見ているのは分かる。 私はクラスメイトの隣に行き、窓から身を乗り出した。 「やっぱり」 そこには部活に勤しんでいる"彼"と、部活のマネージャーがいた。 「何してるの」 私は後ろに引っ張られて教室に尻餅をついた。 「卯月が彼を見てるのかなーって、気になって」 私を引っ張ったクラスメイト、卯月を私は見上げた。 「そうよ。見てたわ。これで満足?」 私が"彼"を見るのを邪魔したせいか、少し声に刺があるように感じた。 「マネージャーと、仲よさそうだね」 私は卯月の態度を気にせず、話を続ける。卯月は"彼"以外には、誰にでもどこか冷たいのだ。気にしていたら、きりがない。 「あいつ、一回あの子に告白されてふってるのよ」 卯月は"彼"を見ることを諦めたのか、私の方に向き直った。 「それなのに、前と同じように優しく接してる」 「うん」 「でもね、あいつにはその気はないんだって」 「そっか……」 それは卯月にとって、嬉しいことなんじゃないだろうか。 そう思ったけど、そんなことを口に出せるわけがなかった。 「優しさって残酷よ」 「?」 「あいつはあの子に期待させ続ける。私があの子なら、耐え切れないわ」 「だから、告白しないの?」 「そう。今の居場所を失ってまで、伝えたいとは思えない」 卯月は息を吐いた。やり切れない思いを吐き出すかのように。 「夕はなんであいつが嫌いなの?」 「え? そんなつもりはないけど」 突然問われて、私は動揺してしまった。 「なんとなく、避けてる感じがするわ」 「そう、かな?」 笑うのに必死だった。崩れそうになる何かをおさえるすべを私は知らなかった。 「あいつは誰にだって、優しい。夕にだってそうでしょう?」 「そうだね。すごく優しくしてくれた」 「じゃあ、どうして?」 不思議そうに見つめてくる。 黙りこくっているわけにはいかなかった。 「……優しいからかな。汚い私にはまぶしすぎて」 「あんな安い優しさなんて、気にする必要はないわよ」 「安いって……」 「誰にでも振り撒けるものなんて、たいした価値はないわ」 そう言って、哀しく笑う。 卯月は"彼"の優しさが大好きなのだろう。だからこそ、それが多用されるのがたまらなく許せない。 「卯月の優しさは?」 「超極上品よ」 そう言って、笑いあった。 「他人に売るような余りなんてないわ」 「むしろ彼以外にはあげないでしょ?」 「さすがにそこまでケチじゃないわよ」 その言葉を聞いて私は固まってしまった。絶対肯定すると思ったのに。 「事実、夕にはあげてるつもりだけど。さっきだって、窓から落ちるんじゃないかと心配したんだから」 「うっそ。私もらってたんだね。大切にするよ」 私はちょっとふざけて笑い飛ばした。 そうでもしないと汚い私が出てきそうで。 「それに夕は汚くないわ」 「!」 「卯月ー、帰るぞ」 私が驚く中、"彼"がやってきた。 卯月と"彼"は家が近く、毎日一緒に帰っている。恋人同士と疑わない方が難しい。 「早くしろよ」 「はいはい」 "彼"は卯月の腕を掴んで、さっさと行ってしまった。 「ばいばい」 振り返ってそう言う卯月に、私は小さく手をふりかえした。 すぐに二人の姿は見えなくなった。 「あはは……」 女の私にさえ嫉妬するほど卯月に恋をしているのに、"彼"は自分の気持ちにまだ気づかないのだろうか。 「ほんと、優しさって残酷だ」 彼らの幸せな未来はいくらでも想像できるのに、私は自分の幸せな未来がまったく見えなかった。 初めから叶わないと、敵わないと分かっていたから、少し冷たくしてくれればそれで諦めがついたのに。 「どうして、優しくしてくれるの」 あなたは"彼"だけを思っていればいい。 私なんか、視界にいれなくていい。 別にこの恋が叶わなくていいんだ。 あなたの幸せが"彼"にあるのは、分かりきったこと。 それなら、せめて。 あなたを忘れさせてほしい。 あなたに縛られていきてゆく私は滑稽だろうから。 あなたの愛なんて、いらないよ。 私はあなたのこと、嫌いだから。
続くとしたらNLです。卯月をふっ切る話。