本当の嘘(全1ページ/三角関係?/幼馴染/いじめ)


「嫌だ、嫌だ、嫌だ」
「朋……」
「お願い、来ないで……!」
 俺はそう言われて、仕方なく立ち止まる。
 自室で小さく体を折り畳んで泣き叫んでいる恋人は、何もかもを拒絶した。
「聡だって、私のこと嫌いなんでしょ!?」
「朋!」
「こんなみっともない私なんて」
「黙れよ」
 俺が強い口調で遮ると、肩を震わせて固まる朋。
「好きな奴の悪口なんて聞きたくねえ」
 俺は朋に近づく。
「何があったんだよ?」
「止めて…何も言わないで……嫌いにならないで……」
「嫌いになるわけねーだろ」
「嘘だ……暗いし、甘ったれだし、何もできな」
 もう耐え切れなくなった俺は、キスで朋の言葉を遮った。
「聞きたくねえって言ったよな? 俺を信用できねえの?」
 優しく、壊れ物を扱うように朋を抱きしめる。
「ごめん……」

 今の私には全部嘘にしか聞こえないの。

 消え入りそうな声で朋が呟いた。
 俺はどうすることもできなくて。
 その日、朋が俺を抱きしめ返すことはなかった。


*


 オレの幼馴染はいじめられていた。
 それは軽いものだったけれど、しつこく半年以上続いていた。
 だけど、あいつは絶対に恋人には言わなかった。心配かけたくないというただそれだけの理由だ。
 その代わり、あいつはオレを頼ってきた。自分で言うのもあれだが、依存されていたのだと思う。無言でオレのところに来て、泣く。オレはそれを優しく慰める。
 オレには心を許してくれているんだと、傷ついているあいつを見ながら薄暗い喜びを感じていた。
 ずっと昔から好きだった。
 そんなあいつの恋人は、あいつが傷ついていることに気がつかない馬鹿。
 ――そして、オレの親友。
 オレは邪魔ものでしかなかった。
 あいつが頼るべきなのもオレじゃなくて、恋人であるべきで。
 だからオレはあいつを拒絶した。
 これ以上一緒にいたら、歯止めが利かなくなるのも目に見えていたから。

「オレ、ずっと前から朋のこと嫌いだったんだよ」

 その一言でおしまい。
 朋が、オレが崩れていく。
 他にどうすればよかった? どうするのが正しかった?
 拒絶するオレから逃げる朋。
 もう戻らないのだと、それだけが真実だった。

 朋が家に帰るのを確認すると、オレは携帯を取り出した。
 かけなれた番号を押す。
「ああ、聡?」
 傷つけることしかできないオレの代わりに。


*


 死にたい。
 そう朋は言った。
 たとえ拒否されても、そんな朋の体を離すなんてできるわけがない。
 俺は、朋と一緒に生きたいよ。
 そんな思いが伝わるように、俺は毎日朋を抱きしめた。
 いつか、受け入れてくれるその日まで――。


*


「あーあ」
 本当に大好きだった。
 同時に、聡も大切な友達だった。
「オレって不器用……」
 そう言って笑おうとしたけれど、できなかった。
 オレは被害者じゃなくて、加害者で、傷つくことは許されない。

 明日からあいつのいない世界でオレは生きていくよ。


終|home