お互いに(全1ページ/BL/庭球/仁王と柳生/両片思い/十年後)
男同士とかそんなことを気にしたことはなかった。 ただこの想いは言わないほうがいいのだろうと、きっと今までどおりが一番なんだろうと、なんとなく思っていた。 気がつけば卒業していて、会わなくなって十年。薄れゆく君を感じていた。あの頃のような気持ちはもうない。彼女を作って、新しい恋愛をして、楽しんでいる。 ――もう、時効だろう。微かに残っているコレをばらしてしまっても、いい気がした。 「お久しぶりです」 「ああ」 「髪色、落ち着きましたね」 「さすがにあれで仕事はできないからな」 「……喋り方も変えたんですか?」 「もう忘れたよ。毎日毎日敬語を使っているうちに分からなくなった」 「………」 「柳生?」 「十年って長いですね」 「当たり前だろ。むしろ柳生が変わってなさすぎだ」 「そうですかね」 「そうだよ」 「皆多少変わってしまっていますけど、仁王くんが一番ですよ」 「……今日は高校生な仁王くんに戻るとするかのう?」 「やっぱりそれがしっくりきますね。私の中の仁王くんは高校生で止まってますから」 「会わなかったんじゃから、当たり前じゃ」 「……本当は連絡しようと思ったんですよ」 「プリッ? 結婚したことならしっとるよ?」 「はい?」 「幸村が楽しそうに報告してきたんじゃ」 「幸村くんとは交流してたんですか」 「ただ幸村はいじめ相手が欲しかっただけじゃろーな」 「ああ、なるほど。ですが、私が連絡しようとしたのはもっと前です」 「?」 「私、仁王くんのこと好きだったんですよ。むしろ今でも好きですよ」 「仁王くんに不倫のおさそいかの?」 「そういうわけじゃありません。もちろん彼女のことは愛してますよ。ただ久しぶりに会って、やっぱり好きだなと思っただけです」 「俺も柳生のこと好きじゃよ」 「ありがとうございます」 「両思いなのに俺ら、つきあわんの?」 「仁王くんにも彼女いるでしょう?」 「……なんでわかったんじゃ」 「指輪してますよ」 「あ」 「それくらい気づきます」 「……なんで柳生は高校生の時、言ってくれなかったんじゃ。そしたら付き合ってたんじゃなか?」 「そっくりそのまま、貴方に返します」 「ばれとったか」 「理由は一緒なんじゃないんですか」 「俺に明確な理由はなかった」 「そうですね、あえて無理矢理言葉にするなら、テニスに必要なかったからでしょうか」 「お前さんらしいの」 「私たちにとって、テニスは絶対でしたからね。言い訳には申し分ないでしょう」 「なつかしいのう」 皮肉な話だ。 俺がテニスに誘ったから出会えたのに、テニスのせいで想いが叶うことはなかった。 「私はテニスに感謝してますよ」 「なんじゃ、俺はちょっと今憎んだっちゅーのに」 「言ったでしょう、言い訳だと。けれど、テニスのおかげで仁王くんに会ったのは事実ですから」 「面白いくらいテニスにはまってたの」 「もっといえば、仁王くんとのテニスに夢中だったんでしょうね」 「いつの間に気障紳士になったんじゃ……」 「十年は長いですよ」 「……なあ、柳生」 「はい」 「またテニスする気はあるかのう?」 「一応ラケットはありますが」 「もう少しテニスに働いてもらうんじゃよ、また十年後とか言ったらシャレにならん」 「結局、テニスを理由にしか会えないんですね」 「俺ららしいじゃろ?」 「ええ。いつ頃暇なんです?」 「月末かのう。夜ならいつでもOKじゃが」 「今月末にしましょう」 「りょーかい」 「仁王くん」 「ん?」 「本当に好きですよ」 自然に発せられたとしか思えない口調。 好きでした、ではなく。 「お前さんにはかなわんのう」 「私は最初から仁王くんに負けてますから」 「俺も好きじゃよ。女に飽きたらいつでもきんしゃい」 「万が一離婚して、なおかつ仁王くんが指輪をしなくなったら考えます」 「素直にありえんっていいんしゃい」 「何が起こるか分かりませんよ」 「今更何も起こらんよ」 「……そうかもしれないですね」 「?」 「どんなに薄れても、この気持ちは消えそうにありませんから」 「変わらない、か」 「はい」 三週間後、再び会ってテニスをした。 更に一ヶ月後、俺が結婚した。 半年後、柳生の奥さんに子供ができた。 そして俺は髪が伸びてきて、時々柳生とテニスをするときに一つにまとめるようになった。 テニスをしている時だけ、学生時代の自分でいられる気がした。 ――きっと柳生と踏み締めるテニスコートには時が流れず、永遠に俺と柳生の中に取り残されるのだろう。