これから(全1ページ/BL/夏戦争/kz(→)kn/自覚)
別にふざけてやったわけじゃなかった。 でも、真剣だったかと言われれば断言できない。 言ってしまえばこの家にいた誰よりも他人で、もう一生会えないかもしれないと思ったから。 いつの間にか信頼していて、目で追っていたことは紛れも無い事実で、この気持ちに整理をつけられない内に彼が帰る日になってしまった。 どうにでもなってしまえ、と思った。 やらないで後悔するより、やって後悔する方が自分に合っている。 本当は後悔自体したくないけど、この時ばかりはどうしようもなく優柔不断だった。 「健二さん」 「ん?」 そういえば名前を初めて呼んだな、と思いながらだらしない表情をした彼が俺の方を向く。 一瞬、だけ。 「…………」 「……え?」 数秒、俺たちは固まっていた。 「そろそろ車だすよー!」 「あ、はい、今行きます!」 遠くから聞こえた声に彼ははじかれたようにすぐそちらに行ってしまった。 俺もゆっくり追いかける。 初めて、だったな。 一瞬すぎて、何も考える余裕がなかった。 でも悪い気はしなかった。彼のぽかんとした顔も見れたし。 それを思い出して、こっそり笑う。 「佳主馬くん!」 彼が駆けて戻ってくる音がした。 「何?」 「いろいろありがとね」 「……そっちこそ」 そういうと彼ははにかむように笑って、単純な人だなと改めて思った。 「…………」 「…………」 沈黙。 どちらも向かい合ったまま何も言わない。 「……あの、さ、ああいうことはふざけてやっちゃだめだよ」 若干ほほを赤く染めた彼。 年上のくせに、なんでこんなにかわいく見えるのだろう。 「別にふざけてないよ」 「え?」 「っていったらどうする?」 「え、えーと……」 今の彼はあたふたという言葉がぴったりだった。 「みんな待ってるよ、早く行けば?」 「…………」 彼は納得いかないというような顔をしていたが、俺は無視をした。 しばらくすると、俺がこれ以上話さないがわかったのか、溜息をついた後、口を開いた。 「またね」 上から頭を優しくなでられる。 恥ずかしくて、でも顔をあげたくなくて、手を振り払えない。 また、か。 その時はきっとはっきりしてるんだろう。 ……本当はもうわかりきっているんだけど。 次があるのなら、今度は彼より大きくなって、対等に見てもらえるように。 「鼻血癖、治しときなよ」 「う、」 「早くーーーー!」 「はい!」 彼は急かす声を聞くと、俺を一瞥することなく去っていった。 「また、ね」 誰にも聞こえていないけど。 別れの挨拶もしてないから。 今度は俺が会いに行こう。だから、覚悟しておいて。 恋の自覚は、初めてのキスだった。