好きすぎて(全2ページ/BL/ヤンデレ×ヤンデレ/リバ?/学生)


 愛しい人がいる。
 どんな時も、目の前にいないときだって、オレの頭の中のほとんどを占めている。


 初めて家に行った時は首をしめられそうになった。
 そこに至る過程なんて、どうでもいい。そこには恐怖などなく、ただその一瞬の彼の表情だけをよく覚えている。
 幸せそうな、色っぽい笑み。
 その時、ゾクッとするような感覚が体中を走った。
 そんな表情をオレだけが見ているという事実に、首をしめられそうな中、オレはこっそり笑みをこぼした。

 それ以来、学校で避けられるようになった。近づいては逃げられ、逃げ道をふさげば怯える。
 怯える姿なんて、オレにとってはそそるものでしかなかったけど。
「なんで避けんの? ヒロはオレのこと嫌い?」
「違う! お前こそ……」
「オレは好きだよ」
 ここは教室。オレの"好き"は友達の好きにしか聞こえないだろう。
「…………」
 オレの顔、そして首に目線をおとした後、開きかけたヒロの口をおさえる。
 あやまらせなんかしない。
「次、移動だから行こう」
 オレが背を向けると、それ以上ヒロが口を開くことはなかった。


 数日後、今度はオレの家に誘った。
 その時被害に遭ったのは携帯電話。
 本気になれば阻止できたのだろうけど、オレに止める理由はなかった。
 あの笑みで嬉しそうに携帯を折るヒロを止める理由なんて、見つかるわけがない。
 オレはヒロのメアドもケー番も覚えているし、その他はいらないも同然だ。困ることは何一つない。

 次の日。
「なあ、コウヘイ」
「何、ヒロ」
 笑顔で返事をするオレに戸惑うヒロ。
 オレが欲しいのは謝罪じゃない。
「コーヘー!」
「何!」
 廊下から聞こえる声の方に向く。
「早く来いよ! 携帯ないとか不便すぎだろ!」
「今行く! ヒロ、またな」
「…………」
 ごめん、と小さくつぶやく声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。
 ヒロは一生"ごめんなさい"という言葉に縛られて生きていけばいい。
 オレにそれを言えないかぎり、オレから離れられないだろ?
「あの人って、ヒロユキって人?」
「ああ、そうだよ」
 友人に問われて答える。
「本当に綺麗なんだな」
「だろ?」
「何でお前が自慢げなんだよ」
「親友デスカラー!」
「嘘だろーが! 全然話してるとこみたことねーよ」
 そう言って笑う友人に合わせて、オレも笑う。
 まあ、嘘なのは事実だ。
 ヒロは恋人であり、オレの世界の中心だった。


*


 今日こそ何もしない。
 そう自分に誓って、コウを家に連れてきた。
 自分の部屋に案内して、お茶を出して、お菓子を出して。そしてコウの隣に座ってテレビを見る。
 ほら、普通だろ?
「あ」
 右隣りに座った俺は、コウのズボンの右ポケットに何かが入っていることに気づいた。
「携帯……?」
「そうだよ。ちゃんとヒロのアドレスしか入ってないから」
 俺はこの前、コウの携帯をぶっ壊した。
 俺の前で俺以外を見ているのが許せなかったから。
 それ以来、買い替えたのは知っていたけど、学校で操作するところを見たことがない。俺にまた壊されないようにしているのだと思っていたから、学校帰りの今、携帯を持っていることに驚いた。
 ……別に俺のアドレス以外は入れるなとは一度たりとも言ったつもりはない。
 あの時、二人きりでなくなった途端に後悔したし、もう終わったと思った。
 時々、コウはとっくに俺のことなんか嫌いになっていて、コウの優しさでこの関係が続いてるのではないかと思う。
 再びテレビを見はじめたコウをじっと見ていると、首の後ろにある薄いキスマークを見つけた。その辺りをそっとさする。コウは反応を示さない。
 こんな見えないもの、すぐに忘れるよな……。
 消えてしまったら、この関係も終わってしまう気がした。
 所詮、男同士。コウはいつか、女の人と恋をして、結婚するだろう。コウを笑顔にできる誰かと。
 俺はコウの首に顔をうずめて、キスマークのあるところにそっと口づけをした。
 そして、


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