変化(全2ページ/BL/悪友/性悪×流されモヤシ/学生)


 けらけらけらけら。
 まさにそうとしか表現しようのない笑い方をしている奴がいた。
「まじあいつバカだねー」
 けらけらけら。
「お前、性格悪すぎ」
「今更?」
「……はあ」
 俺らの視線の先には教師に怒られている生徒が一人。どうやら月例テストでゼロ点をとってしまったらしい。
「お前がカンニングさせたんだろ?」
「カンニングさせてあげたのー。優しくね?」
「それがわざと間違えたやつじゃなければな……」
 こいつはばっちり百点を取っている。
 つまり間違えた解答をわざと書いて、見せてやっただけなのだ。
「つーか、一つも間違いに気付かないとかバカ? そー思わない?」
 けらけらけら。
 俺にはこの笑いが人を馬鹿にしているようで嫌いだ。というか多分してる。
 三度の飯より他人の不幸が大好きなこいつは、女顔で背が低くて明るくて、クラスの人気者だ。
 騙されてると思う。まあ、俺は捻くれたとこも面白いからいいけど。
 他人に俺が含まれるのが玉に傷だ。そんときは全力で殴る。
 どうせいつものことだから、あいつは次の日に何もなかったかのようにけらけら笑うんだ。
 そんな日常。



「わっ」
「だっさ」
 けらけら。
 あいつの笑い声がいつもより近くに聞こえる。
 俺はあいつに後ろからタックルされて、無様にバランスを崩した。
「お前、腰ほっそいなー。俺より細いんじゃね?」
「っるせーな。代謝がいいんだよ」
「けらけら」
 あいつはわざと口で笑うと、俺の腰を抱いて、持ち上げた。
 あまりにも突然すぎて、一瞬理解できなかった。
「……っな、おろせよ!」
 最悪、最悪、最悪。
 自分より小さい奴に持ち上げられているとか、屈辱以外のなにものでもない。
「やーだ。嫌がるのがいけない」
「喜ぶ奴なんていねーよ!」
 足をばたつかせても、床に足が着かず余計惨めだった。
「それにしてもほんと軽いなー。俺と同じくらい?」
「……は?」
 目線が急に下に向く。
 しばらくして、俺はあいつに担がれていることに気付いた。
「まじ、お前いい加減にしろよ!」
 恥ずかしすぎて死ねる。
 たまたまあいつの家に来ているから誰にも見られないけど、誰かいたら絶対無理。
「俺の部屋着くまで我慢してよ」
 結局、俺はあいつに下ろされるまで、下りることは敵わなかった。

 あいつの部屋につくと、俺はベッドの上に放り投げられた。
「っ」
 地味に痛い。
 何か俺に怨みでもあるのか。
 近づいてくるあいつを睨んでいたら、あいつは俺のシャツをめくってきた。
「ほら、やっぱ筋肉ない。だから軽いんだよー」
 俺の腹をあいつは撫でた。
 もちろん腹筋なんて見えやしない。
「しょうがねえだろ、万年帰宅部なんだから」
 なにかに束縛されたくない。だから、放課後を奪う部活なんてもってのほかだ。
 俺はあいつの手を払いのけようとした。
 けらけらけら。
 しかし、あいつの手は退くどころか、払うために伸ばした俺の手を掴んできた。
 けらけらけら。
「じゃあ、俺の力に勝てないよなー?」
「はあ? お前、体格差ってのを知っ……」
 また視界が変わる。
 俺は上からあいつに押さえ付けられていた。
「逃げてみな?」
 楽しそうに笑うあいつにむかついて、思い切り力を込める。
 が、まったくびくともしない。
 女顔のくせに馬鹿力かこいつ……!
「運動部なめんなよー?」
 けらけら。
 さっきからずっと力を入れていたが、そう長くは続かない。
 俺は悔しくて、かわりに俺の手を掴んでいるあいつの手に爪を立てた。
「残念でしたー」
 力が抜けていく俺をけらけらと笑う。
 まじで、むかつく。
 自分の情けなさが恥ずかしくてしょうがなかった。
「離せよ」
 俺は口に出して、降参だという意志を表した。
 しかし、あいつは力を緩めてはくれなかった。
「もうちょっと遊ぼうよー」
「ふざけ」
 目の前に広がるのはあいつの綺麗な顔。
 逃げることはできなかった。


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