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「何してんだよ……!」 「何って、キス?」 「んなこと分かってんだよ! さすがに悪ふざけしすぎだろーが」 友達同士、しかも同性だ。 どう考えても常識に反している。 「えー? 俺、わりとお前のこと好きだけど。じゃ駄目?」 「当たり前だろーが。だいたい俺の意思は」 というか早くこの体制、脱出したい。馬乗りにされてるってどうなんだ。 「お前、俺に惚れてるだろ?」 「は?」 さも当然のように答えるあいつに俺は頷きそうになった。危ない。 「んなわけねーだろ。俺がいつホモになったっていうんだよ」 「じゃあ、俺とのキスは気持ち悪かった?」 「……? 別に?」 「ほら、やっぱ俺に惚れてんじゃん」 「意味わかんねー」 捻くれている奴の考えなんてわかるわけがない。 「だって、普通男にキスされたら気持ち悪くね?」 「……それはお前が」 「女顔だから?」 言い訳を言い当てられて、俺は言葉に詰まった。 「ならお前は可愛い男の子なら誰とでもキスできるわけ? さいてー」 「…………」 そういうわけではない。 そう言い切れるけど、それじゃあどう説明すればいい? 「何が不満なわけ?」 けらけらけら。 俺が答えられないと分かっているから、あいつは笑っているんだろう。 「しょーがないなあ。きちんと言ってあげる」 今度はあいつは耳元に口を寄せた。 「俺割と、本気で、お前のこと好きだけど?」 聞こえてきたのはいつもの軽い声ではなく、低く響く声。 俺は自分の鼓動が早くなるのを感じた。 嘘、だろ……。 あいつの言葉も、それに対する自分の体の反応も、信じられなかった。 「否定しなければ、肯定ととるよ?」 「……ちょっと待てよ」 頭がついていかない。 「やっぱやだ。男の子は自分に素直なんですー」 「なっ!」 あいつは俺の首筋に顔を埋めると、口づけをした。 微かな痛みから、跡が残ったことが分かる。 「うっわー、綺麗に残ったねー。お前、色白だから映えるよ」 「……まじで勘弁してくれよ」 あいつに振り回される自分が悔しくて、恥ずかしくてしょうがない。 なんなんだよ。嬉しいとか、ドキドキするとか。キモ過ぎるだろ、俺。 俯いていると、あいつは顔を覗きこんできて、もう一度キスをしてきた。 驚いて思わず声を出そうとした瞬間に、舌が入ってくる。 「……、……っ」 体制的に俺が下だからされるがまま。 気持ち良くて、出そうになった声を必死に抑える。 あいつ相手だから、となんとか理性を保つが、何故か溢れ出る涙は止められなかった。 「……やば」 口を離して、あいつは呟いた。 「まじエロいよ。喰ってくださいって言ってるみたい」 「……んなわけ、ねー、だろ」 泣いていて、息苦しくて、満足にしゃべることができない。 「これで襲われても文句言えないねー」 「……わけわかんねー。つうか、こうしたのお前だろ……」 何とかそう言うと、あいつは嬉しそうに笑った。あの嫌みな笑い方ではなく、純粋そうな笑い方。 「そー。お前は俺を感じてそうなったんだよ? 早く認めちゃえ」 「……というか俺が喰われる側なわけ?」 どうしても肯定したくなくて、俺はとっさに話題を変えたが、話題選択に失敗した感が否めない。 「悪いけど、そこは譲れないなー。いつも他人を気にしない人が俺という他人のせいで普段見れない表情とかするわけだろ? それに俺、お前のこと愛しちゃってるしー」 ああ、俺死ねよ。 軽い口調で愛してると言われて、胸が高鳴るとかどこの初な女子だ。 「てことで喰っていいですか?」 どうやら俺とあいつは悪友ではなくなるらしい。