呼んで(全1ページ/BL/幼馴染/高校生/翔太視点)


「玲」
「ん、何?」
 俺は隣で本を読んでいる玲に話しかけた。
「玲」
「……どうしたんだ?」
 玲は俺の意図に気づかない。
 わかってほしいなんて、我が儘なんだろうけど。
「玲はさ」
「うん」
「俺の名前を絶対呼ばないよな」
「…………」
 俺は拗ねてしまうのを止められなかった。そんなところを玲にからかわれてしまうのに。
「呼んでほしいのか?」
「そりゃ、当たり前だろ」
 そう言うと困ったように玲が笑った。
 そんな表情にいちいちドキドキする自分が恥ずかしい。
「昔は呼んでただろ」
「ああ」
「呼んでよ」
 玲は本を閉じるとこちらを向いた。
「昔は舌ったらずだったから、それがくせになって」
「うん」
「……うまく言えないんだよ、お前の名前」
 そう恥ずかしそうに俯く玲は珍しくて、つい可愛いと思ってしまった。
「それでもいいから」
「…………」
「早く」
「…………しょーた」
 俺は一瞬にして顔が熱くなったのを感じた。
 確かに舌ったらずといえばそうだけど、恥ずかしがって小さく俺を呼んだ声は、甘く優しく囁かれているように思えた。
「しょーた?」
「や、止めろ」
 俺は自分の顔を隠すのに必死だった。
「やっぱり高校生にもなって、気持ち悪いだろ?」
「いや、そうじゃなくて……!」
 話し声自体はいつも通りで、少し冷たく感じるくらいなのに、それとの差が大きすぎるんだ。心臓がもたない。
「?」
 でも、呼んでほしい。
「家だけで呼んで」
「別に無理しなくても、嫌なら呼ばないけど」
「絶対呼べ」
「……よく分からないけど、そういうことにすればいいんだな?」
「うん」
 理由はいつか言おう。今は、自分だけの秘密。
「よくわかんない奴」
 そう言って、玲が柔らかく笑った。
 ……なんなんだ、わざとなのか。
 しばらく顔の赤みが引くことはなかった。

 きっと玲には一生敵わないんだ。


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