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「奈々は俺のこと、好き?」 その質問に素直に返答できたら、何も問題はないのに。 「嫌い、大嫌いッ! 私はずっと何年も我慢してきたのに……! きーすけは数日でしょ? 私の気持ちなんてこれっぽっちもわからないでしょ? そんな人に今更……」 急に抱きしめられて、私は言葉を詰まらせた。 優しい紀一の腕に縋り付きたくなる。 「……よかった。ずっと好きでいてくれたんだろ?」 「もうやだよ。今更無理だよ……」 自分の気持ちと裏腹に、私の口は言葉を紡いでいく。 「本当にごめん。もう一度だけでいいから。絶対離さないから」 私は紀一の腕を振りほどいて、歩き出す。 きーすけも苦しめばいいんだ。 振り返ると、その場で固まってじっと私を見つめている紀一がいた。 「一ヶ月、誰とも付き合うなって言ったらできる?」 「奈々とも?」 「……付き合うなんて言ってない」 「……奈々」 「でも、」 私は紀一を見ていられず、下を向いた。 めんどくさい女でごめんね。 「一ヶ月後だったら考えるかもしれない」 やっぱり怖いんだよ。 今までの人たちと同じ扱いを受けるんじゃないかと。だから、私が特別だと実感させて。 紀一はしばらく無言だった。 ……嫌われたかな。こんな我が儘な考え。 そう思った瞬間、紀一の手が私の手を掴んで私は思わず顔を上げた。 「約束するよ」 予想以上に近くに紀一の顔があって、しかも見たことのないような柔らかい笑顔で、ドキドキせずにはいられなかった。 私たちの手は手を繋ぐようにではなく、小指だけが絡む。 「昔よくやったな」 「……うん」 『指切りげんまん! 約束だよ!』 『絶対ね。破ったら絶交するから!』 『やだ! 頑張る』 『やっぱり破った』 『ごめん!』 『もうきーすけなんて知らない』 『ななぁ……』 『絶交するって言ったでしょ』 『本当にごめんね……。お願いだからそんなこと言わないで』 「きーすけ、約束守れなかったよね」 「昔は、な」 苦笑する紀一がほんの少しだけ昔の泣き虫な紀一と被った。 「もし破ったら、何でもするから」 「じゃあ、絶交だね」 そんなことできないと私が一番分かっているけれど。 「分かった」 「今回は絶対するからね。泣いても無駄だから」 できないと分かっていても、私は無理矢理口にする。 「いいよ。絶対ありえないから」 そう笑った紀一をまともに見ることができなくて、私は再び歩き出した。 今度はその隣から私の足音より少し遅い足音が途切れることなく響いていた。
その後一カ月の話もいつか書くかもしれないです。