君の隣(全2ページ/BL/依存/ストレス/愁也視点)
『ちゃんと飯食ってる?』 それは久しぶりの恋人からのメールだった。 まさに一日が終わろうとしている時、俺は気が進まないから何も食べないまま、眠ろうとしていた。 敵わないなあ……。 そっけないながらも心配してくれていることがわかって、彼にすぐメールを返した。 食べてるよ、と嘘はついたけど。 彼は多忙な人間で滅多に会えない。 会いたい、寂しい。 でもそれはわがままでしかない。 だからその気持ちを紛らわすために、暇な時間を作らないようにした。 言ってしまえば、バイト詰めの毎日だった。 「いらっしゃいませ」 お客に笑顔を振り撒く。無愛想な俺はそれが辛い時期もあったけれど、それも慣れてきた。 「愁也、またいるのかよ」 「俺、邪魔? 嫌われてる?」 休憩時間に声をかけてきたのは、仲の良いバイト仲間の尚人だった。 「そんなんじゃねーよ。ただ今日フルで入ってんだろ? 前、オレがいた時もフルじゃなかったか?」 「あー、うん。週五でフルだから」 「おま、それ死ぬぞ? 無理すんなよ」 「平気だ。でもありがとう」 確かに体力的にも精神的にも辛いものはあった。みるみる食欲が落ちていった。 昔からストレスが溜まると食欲に出るから、慣れてはいた。今回もそのうち収まるだろうとたかをくっていたんだ。 多分それを知っているから、こんなメールが彼から来たのだろう。 本当のことを話せば、ストレスが溜まっているのだと心配させてしまう。それはただでさえ忙しい彼の負担になってしまう。 だから、言えるわけがなかった。 それに言うほどストレスが溜まっているわけでもない。 それよりも寂しさを紛らわす方が大事だった。 「会いたかった」 そう言うなり抱きしめてきたのは、一ヶ月ぶりに会った彼。 噛み付くようなキスをされる。 足りない、足りない、と玄関であることも忘れて夢中になる。 「……っ」 酸素が足りなくなって、倒れそうになった時、図ったかのように口を離して、彼はもう一度抱きしめた。 痛いくらいの抱擁にようやく安堵した。 彼が目の前にいるんだ……。 「嘘つき」 「え?」 「痩せてんじゃん」 少し怒ったような口調の彼は、俺を担いだ。 「こんな軽くなりやがって……」 「いや、その……ごめん」 確かに五キロは減った。 でもそれがなんだと言うんだ。彼はもっと忙しく、辛い毎日を送っている。 そんな彼に弱音など、心配などかけられるはずがなかった。 「飯作るからおとなしくしてろ」 彼は俺をリビングのソファに降ろすと、すたすたとキッチンに消えていってしまった。 「ちょ、待った!」 俺は急いで立ち上がってキッチンに向かう。 「せっかくの休日だろ? 侑太は休んでろって……!」 「あ?」 「飯くらい作……」 「だまれよ」 彼の低い声に、無意識に体が跳ねる。 俺がいらつかせてる……。 「……別に負担とか思ってねえよ」 彼は俺の考えを読んだかのように話しはじめた。 「オレが作りたいから作るんだ。それにお前、今体力ないだろ?」 「う、ん?」 「オレ、溜まってんだよ。だから今日はがっつくぜ?」 俺はその言葉の意味を理解して、顔を赤くした。 その後。 彼が作った料理を無理矢理口に入れた。本当は食べたくなかったけれど、彼が作ってくれたと思ったら口に運ぶことができた。 悲しいことに味わう余裕はなかったけれど。