甘い毒(全6ページ/GL/いじめ/高校生/真琴視点)
桜が散り始めた四月、あたしは高校二年生になった。 高校にも慣れてきたし、受験生でもない。まさに遊ぶためにある一年だと思う。 あたしは大きな期待を抱きながら、新しいクラスに向かった。 ゆっくりと教室の扉を開ける。 んー、あんまり知り合いはいないなあ。 一通り教室を見回したけど、名前だけ知っている子とか名前すら知らない子とか、そんな子が大半だった。 友達の作りがいがあるって感じだ。 あたしはそう意気込むと、一番人が集まっている場所に歩き出した。 「真琴!」 「あ、おはよう」 朝、クラスに入ると自然に集まるクラスメイト。 自分で言うのも何だけど、クラスでの交友関係をうまく作れたと思う。 皆でわいわい騒ぐ中、あたしは教室の隅に目を向けた。そこにいるのは一人ぽつんと座っている女の子。 とても綺麗であたしとは比べ物にならないくらい存在感がある子だ。 大人数のグループに埋没してしまうあたしなんかはとても惨めに見えてくる。 いつか、あの子がクラスの中心になるんじゃないかな……? そう思えてくるくらい、あたしには彼女が輝いているように見えた。 「真琴、今日は食堂行こうよ」 「え、ああ、いいよ」 名前を呼ばれて、意識をこちらに戻す。 「えー、真琴、教室で食べないのー?」 残念そうにするクラスメイトの声がして、誘ってくれた子の反応を確認してみるが、なんだか困ったような顔をしていた。 きっと皆じゃなくて、二人がいいんだよね。 そんな時もある、そう思ってあたしは口を開いた。 「ごめん、明日は皆で食べよう」 「しょーがないなあ」 この対応は正しかったらしく、クラスメイトも誘ってくれた子も満足そうに笑った。 一ヶ月を過ぎても、彼女がクラスに馴染むことはなかった。 あたしは気になって仕方なくて、ついに声をかけた。 「おはよう!」 「……おはよう」 彼女は俯いたまま、目を一瞬でさえ合わせてくれなかった。 あのグループが嫌いなのかな……。人数も多いし、良い意味でも悪い意味でも明るいし。 あたしは、『自分自身が嫌われている』という可能性をどうしても考えたくなかった。 「あのさ」 「…………」 もしかして、無視されてる? 「真琴ー! ちょっと来てよ!」 聞こえてきたのは彼女の声ではなく、遠くにいたクラスメイトの声。 彼女に視線を戻しても、彼女が口を開こうとする雰囲気はなかった。 「んー、今行くー」 「…………」 「また、ね」 もう一度だけ、彼女に向き直って言った。 その後、微かに頷いてくれた彼女に、あたしは顔が緩むのを止められなかった。 「何を話してたのさ」 呼ばれた方へ行くと、すぐさま放たれたこの言葉にあたしは動揺を隠せないでいた。 「え? 別にたいしたことじゃないよ。何で?」 何故だか探ってくるような目つきで見られて、とても居心地が悪かった。 「いや、ただの興味。一度も話したところ見たことがなかったでしょ」 「ちょっとびっくりしたんだからー」 ここにいる数人は皆、気になっているみたいだった。 「本当に何でもないんだって。ちょっと気になって。いつも一人でいるし」 ……あれ、どうしてこんなに必死に否定しているのだろう? 「なんか暗いよねー」 はっきり言ってしまうクラスメイトにあたしは苦笑した。 「真琴はあいつのこと嫌いなの?」 私はその質問に対して、適当にごまかした。 苦手なのは事実だ。 あたしは嫌われなれていないから。少しでも拒絶されてしまうと、どうしていいか分からない。 けれど嫌いと言われれば、絶対に違う。そう言えばよかったのに、何となくあの子のことは隠しておきたい気分だった。 「ふーん」 クラスメイトがどうでもよさそうに相槌を打つと、そこでこの話は終わった。後は全ていつも通りだった。 それなのに、どうして?