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次の日から彼女はいじめを受けていた。 直接的なものではなかったけど、明らかに無視されていたし、クラスメイトは彼女を視界にさえ入れないようにしているように見えた。 あたしは彼女がいじめを受けているという事実を受け止めたくなかった。 昨日と今日で、何が違うの? 「絶対おかしいよ……」 「何が?」 あたしは独り言のつもりだったけど、隣にいた子に聞こえたらしい。 だから、思い切ってあたしはその子に言ってみた。 「クラスの皆、ちょっとおかしくない? 昨日と違うというか……」 「……別に普通だと思うけど」 「だって、あの子……」 「? 真琴の方こそおかしなこと言うなあ。これが普通だよ?」 「そっ、か……」 あきれたように笑われて、あたしは自分自身を納得させるしかなかった。 ただの考えすぎ。 あたしは自分の中で、何回もそれを復唱した。 少し時間が経ち、気を取り直してあたしは今日も彼女に話しかけに行った。 「……大丈夫?」 「…………」 そして、また無視される。 これ、むしろあたしがいじめを受けているんじゃないのかな……。 「ねえ!」 耐え切れなくなって、思わずあたしは大声で呼びかけてしまった。 「!」 そうすると、彼女は驚いてそのまま廊下へ逃げてゆく。 「…………」 難しかった。こんなに誰かと仲良くなることが難しいと感じたことはなかった。 「真琴ぉ、逃げられたね?」 「……うるさいなあ」 一部始終を見ていたらしいクラスメイトから放たれた一言に拗ねる。 くすくすと笑いを抑えようとしないクラスメイトに、あたしは気分が悪くなった。 「そんなに笑わなくてもいいじゃん」 「はは、ごめんごめん。でも、"そういうの"はもっと慎重にやるべきだよ」 "そういうの"? それを言った瞬間、クラスメイトの顔がとても歪んだけど、あたしには何のことだかさっぱり分からなかった。 「まあ、うちらがやるから、真琴は気にしないでいいよ」 「?」 あたしは何のことなのか知りたかったけど、チャイムによって遮られてしまった。 この一週間は最悪だった。 日に日に酷くなる彼女へのいじめ。 もう耐えられなかった。クラスの雰囲気も変わっていないように見えるけど、そんなのは仮初めだ。 「何で?」 昼休みにグループの皆と食べている時、あたしは口を開いた。 皆の視線があたしに集まる。 「何であの子をいじめるの?」 そう言うと、全員が互いに顔を見合わせた。 「だって」「そりゃあ」「まあ……」 揃いも揃って、当然だろ、と言わんばかりの雰囲気だった。 「真琴だって嫌いって言ったじゃん」 「言ってないよ、そんなこと」 「でも否定もしなかったよねー」 「……そうだけ、ど」 この中で一番最初に彼女に話しかけたのはあたしだ。 それが原因……? 「うちらはそれで、『あ、手出していいんだ』と思ったわけ」 「そうそう。真琴、そういうの嫌いっぽいし、今までやらなかったけどさ」 「ぶっちゃけあいつ、気に入らなかったし」 「ちょっと綺麗だからって何様? って感じだよねー」 あたしはただただ呆然としていた。 「……本当に?」 私があの子に話しかけず、あの子の話題にならなければこんなことにならなかった? 「そうだよ? みんなが嫌ってるならいじめの対象になっちゃうのも自然の流れでしょ」 あたしは全身から血がなくなって、冷え切っていくような気がした。 「真琴!?」 気づいたら、あたしはお弁当もクラスメイトも何もかもを無視して走り出していた。 昼休みになると、どこかに消えてしまう彼女の元に――。