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「律?」 おそるおそるあたしは律に話しかけた。 「……ずるいね、真琴は」 「り、つ?」 律は嬉しいような悲しいような、複雑な顔をしていた。 「あー、言わないままでもよかったんだけど、やっぱりそれじゃあやりにくいか……」 「何?」 律は小さく何かを呟くと、立ち上がってあたしの方にやって来た。あたしは隣に座った律の方を向く。 机がない分、さっきよりも近い。 「今からいうことは本当のことだから」 「うん」 あたしはうるさい心臓を無理矢理無視して、真剣な表情の律を見つめた。 「いじめられてたのも、寂しいのも、全部嘘なの」 あたしは言葉の意味が理解できなかった。 「え、あ、だって……!」 いじめられていたところだって見たし、寂しそうに笑う律だって何度も見た。 「確かにいじめられてたのは事実。でもそれは私が望んだことだった。だから寂しくもなかったし、辛くもなかった」 何……? あたしは騙されてたの? 遊ばれてたの? 「皆、騙されてるあたしを見て笑ってたの……?」 「騙したのは私一人。クラスの子達はたまたま思い通りに動いただけよ」 「い、嫌だ、嘘だよね!? ねえ、信じたくないよ……」 いつの間にか律の服を思い切り握りしめていた手を弱々しく離す。 「ちょっと待って、最後まで聞いて」 「いや! 言わないで! お願いだか「真琴!」 あたしの言葉は律によって遮られると、これ以上発することはできなかった。 意味が分からなかった。 息苦しくて、頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられなかった。 ――律とキスしてる……。 それだけが今分かる唯一のことだった。 律は口を離すと、そのままあたしの口に手を当てる。 「しゃべったら、またするから」 そう言われた瞬間、あたしはまた顔を真っ赤にしてしまった。またされるのが恥ずかしいのでも、今されたのを思い出して恥ずかしいのでもなく、「もう一度してほしい」と思ってしまった自分が恥ずかしかった。 あたしは複雑な気持ちでとりあえずうなずくと、律は口を開いた。 「私は確かに真琴を騙した。でもそれは、私が真琴のことが好きだから」 「っ!」 思わず開きそうになった口を何とか閉じた。律の手がまだ動かないから、しゃべっちゃ駄目なんだろう。 単純なあたしは、とにかく心臓が壊れそうだった。 「ただの友達の一人になるのは嫌だったの。だからこの方法をとった。優しい真琴は、惨めな私のことを気にしてくれるでしょう? 私はどんなことをしても真琴の特別になりたかった」 そう言ってようやく律はあたしの口から手を離してくれた。 「感想は?」 「……嬉しすぎて死にそう」 「え?」 あたしは律に思い切り抱きついた。その勢いで二人とも倒れる。 これ、あたしが押し倒したように見えるなあ、なんて急に客観的に思った。 もうどうしたらよいか分からない。 「真琴?」 「あたしも好き」 そんな言葉じゃ足りなかった。 ずっと前からあたしを見ててくれたなんて、好意を抱いてくれてたなんて。 あんなことをしてまであたしに気づいてもらおうとするなんて、普通ならおかしいと思うかもしれないけど、あたしは嬉しくてしょうがなかった。 「真琴、私はもう一回キスしたい、とかそういう意味で"好き"なんだよ?」 なんだか律も今の状況を信じることができないでいるみたいだった。 「うん」 だからあたしはうなずいた後に、今度はあたしからキスをする。 間近で香る律の甘い匂いにあたしは溺れたのかと錯覚するくらい酔った。 息苦しくなって離れて、でも寂しくなってもう一回して。 何回も何回もあたしたちは――。 それが毒と分かっていても、君を感じられるのならばいくらでも侵されよう。 その毒で死ねるのならば、これ以上はないのだから……。
クラスメイト視点と律視点ができたら、と思っています。