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三学期も終わりに近づいて何となく寂しさを感じていた頃、 あたしは律と二人で帰りながら、話していた。 「そろそろクラス替えだね」 一緒に帰るようになったのは、少し前から。一緒にいられる時間の短さを自覚した途端、いてもたってもいられなくなってあたしから誘った。 それでも時間は刻々と過ぎていって、泣きたくなった。 笑える自信がなくて、あたしは顔を見られないように律の少し前を歩く。 「…………」 律は嬉しいのだろうか。今はないとしても、かつて自分をいじめていたクラスだ。早く離れたいと思っているかもしれない。 そう自虐的に考えていたら、不意に手を握られた。 「…………」 しばらく二人とも無言のまま、手を繋いだ状態で歩いた。 これがずっと続けばいいのに、と律も思ってくれている気がした。 「あ」 「どうしたの?」 小さく聞こえた声にあたしは素早く反応する。このままあの状態が続いたら、手からあたしの鼓動の早さが伝わってしまう気がしたから。 「今日家に誰もいないし、遊びに来る?」 「いいの?」 「うん」 あたしは笑みをこぼさずにはいられなかった。 少なくとも、友達と思ってくれてると信じてもいいだろうか。 「行く!」 「じゃあ、早く行こう。話したいこともあるし」 「分かった」 あたしたちは手を繋いだまま、早足で律の家に向かった。 律の家はあたしの家より二回りくらい大きかった。 あたしたちは静まり返った家の中に入る。 「私の部屋は二階の奥だから、先に行ってもらえる?」 「了解」 少し長めな廊下を歩き、あたしは律の部屋にたどり着いた。 ドアを開けて入ると、最初に気がついたのは部屋の匂い。律の甘い香りで部屋が満たされている。 やばい、それだけでドキドキする……っ! 「何突っ立っているの? 座って」 「あ、うん」 いつの間にか来ていた律に促されて、机を挟んで向かい合わせに座った。 あたしは動揺を隠すのに必死だった。 「話したいことって何?」 「ああ、その前に確認」 「?」 律は少しあたしの方に顔を近づけると、小声で言った。 「真琴は私のこと、好き?」 「う、ん」 一瞬、バレてしまったのかと声が詰まってしまったけれど、きっと"友達として"だろうとすぐ思い直した。 「じゃあ今から私が何を言っても嫌わない?」 「当たり前だよ」 あたしは不自然なくらい即答をしてしまった。でも、今のあたしに律を嫌いになることは、不可能だと断言できる。 あたしの言葉を聞いて、律は嬉しそうに笑った。 「……本当、夢じゃないんだ」 律は小さく呟くと、そっとあたしの頬を撫でた。優しく、でも確かめるように何度も何度も。 絶対あたしの顔は赤くなっているだろう。 いつもより近くにある律の顔に耐え切れなくなって、目をそらした。 でも同時に、こんな綺麗な笑顔を見ているのはあたしだけなんだと思った。 「何が夢?」 「ふふ」 律は笑って答えない。 二人きりだけど、律はあたしの耳に唇を寄せた。 「真琴、顔真っ赤だよ?」 小さく囁かれた楽しそうな声に、今なら恥ずかしさで死んでしまえる気がした。 「……律」 「ん?」 緊張してて気づかなかったけど、何となく律の雰囲気がいつもと違う。 「何でもないよ」 でも、楽しそうに笑う律を見てどうでもよくなってしまった。 今更新しい律の一面を見たって、あたしは律に恋したままだろう。むしろ余計好きになる。 最初は一目惚れだったんだろうけど、知るたびにどんどんはまっていった。 きっと律という人そのものにあたしは囚われている。 「そう。もしかして、いつもと違うなとか思った?」 「!」 「当たったみたいだね」 「うん。でも教室じゃなくて律の家だし、当たり前かなあと思った」 「どういうこと?」 「家って、しかも自分の部屋って、一番素で過ごす場所だから違うのは当たり前かなってこと。それよりいつもよりしゃべったり表情変わったりする律が見れて嬉しいな」 「…………」 思わず余計な本音まで言ったら、律は固まってしまった。 あたしは不安になって、首を傾げながら律を見た。言ってはいけないことを言ってしまったんだろうか。もしかして、引かれてしまった……?