抑えられない(全2ページ/BL/溺愛後輩×包容先輩/告白/圭視点)
「先輩」 俺は昼休み以降、教室に戻るのが面倒くさくてずっと美術室にいた。 「早いね」 今は放課後。だから美術部の先輩が来るのは当たり前だ。 というか、待っていたんだけど。 「篠原先輩、今日は何を書くんですか?」 「んー……」 画材を用意しながら唸る先輩を、俺はじっと見つめていた。そんな先輩は絵になる。美術室なんて空間は少し独特で、人工的な髪色でいつも機械を身につけている俺は浮いていた。 「名前、教えてもらっても、いい?」 恐る恐る言う先輩が可愛くてしかたなかった。 「五十嵐圭です」 警戒されないぎりぎりの距離まで近づいて、微笑む。 「イガラシくんか……」 先輩は俺の名字を不思議そうに復唱した。難しそうな顔をしている。 「下の名前で呼んでも、怒らない?」 不安そうに俺の顔をのぞきこむ先輩に俺は我慢できなかった。 「うわっ」 かわいい、かわいい、かわいい。 きつくきつく先輩に抱き着いた。本当はキスもしたいけど、いくら優しい先輩でも拒絶するだろうから我慢。 「先輩に呼ばれるなら、何でもいい。俺も呼んでいいですか?」 「いいよ」 先輩いわく、五十嵐って漢字が分からなくて覚えられない気がしたかららしい。それを聞いたとき、きっと俺は緩みきった顔をしていただろう。だって、知り合ったばかりのよく分からない後輩を覚えようとしてくれたのだから。 「圭くん」 「何ですか、和泉先輩」 「……離れてくれないかな?」 「あ、すみません」 俺はさっきからずっと抱き着いていた。男にずっとなんて気分がよいものではないだろう。 俺が離れると、先輩は困ったように笑った。 「別に、嫌だったわけじゃないよ……?」 「!」 悲しそうな顔してたのがばれて恥ずかしいとか、先輩に拒絶されなくて嬉しいとかで俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。 「今日は圭くんを描きたいんだけど、いいかな?」 それは予想外の提案だった。でも、俺に断る理由はない。 「いいですよ。どうすればいいですか?」 「あそこで適当に座ってほしいな」 そう言って先輩が指差したのは、美術室の隅。俺はそこに向かって歩く。 先輩から遠いな……。 「先輩、ここでどうしたらいいですか?」 首を傾げる俺に先輩は微笑んだ。 「何でもいいよ。ありのままの圭くんを描きたいだけだから」 ……この先輩は俺を殺す気なんだろうか。 先輩にとって深い意味がなくても、俺の中に響いた。