落下の先に(全2ページ/GL/片思い?/性悪/いじめ/高校生/あゆ視点)※軽い暴力、自傷行為注意


「気分はどう?」
 相手は目に涙をためたまま、震えるだけで何も答えなかった。




 私を、というか私達を軽蔑の目で見ていたクラスメイトがいた。名前は知らないけれど、よく一人でいる子だった。
 理由は多分、私達がいつも一緒に行動しているから。
 私達六人はクラスに何人かは必ずいる、目立たない地味な子だ。クラスでの発言力は無いに等しい。それを分かっているから、私達は六人でいつもいた。だからその子にとっては、集団でいないと何も出来ない奴ら、とでも思われたんだろう。実際嘘ではないから否定する気はない。
 そんなあの子が唯一好意を抱いているのはイツキだ。誰かと一緒にいようとしているわけではないのに、気がつけば皆がイツキの下に集まる。それがあの子の理想だったのだろう。
 あの子は興味がなさそうにぼーっとイツキとその周りを見ている。プライドが高いあの子は絶対に表情には出さない。
 けれど、目は隠しきれないね。
 あの子の目はいつも、羨ましそうに妬ましそうに、寂しそうに揺れている。
 表情に出したらいいのにと思った。
 ……ああ、あの子のプライドを壊してみたいなあ。
 私は思わずにやけた。
 私達を軽蔑した罰だ。そういうことにしておこう。
 私はベランダに出て、イツキに電話をかけた。どうせ誰も私とイツキが電話してるなんて思わない。

『もしもし』
「あのさ、クラスの長めの黒髪の眼鏡の女の子分かる?」
『……折原?』
「んー……、ごめん名前はわかんないや」
『はは、私としては嬉しいけど』
「それは何より。で、分かるの?」
『いつも私を見てくるキモい奴?』
「そう、その子!」
『そいつがどうしたの?』
「ちょっと遊びたいなあって思って」
『……ふーん』
「ご褒美あげるから手伝ってよ」
『あなたが望むなら何でもやるよ』
「イツキ大好き」
『……嘘つき』
「嘘じゃないって。嬉しかったでしょ?」
『……うん』
「でね、やってほしいことなんだけど……」

 イツキに頼んだのは単純なこと。
 どこかに呼び出して、遊んであげるだけ。
 イツキのことが大好きなあの子のことだから、疑いもせずについて来るだろう。
 そして、イツキからの攻撃が一番傷つくでしょ?
 案の定、何の疑いもなくイツキについて来たあの子は、たどり着いた空き教室に私がいたことに微かに驚いた。
「何で……」
「秘密」
 私は楽しくなって、口元に人差し指を立てて笑った。これから起こることを想像して、胸が踊る。
「折原さあ」
 見つめ合っていた私達が気に食わなかったのか、少し強めの口調で話しはじめたイツキ。可愛いなあ。
「見んのやめてくんない? 気持ち悪いんだけど」
 おお、イツキ直球だ。相当キレているのか。
「なっ! そんなつもりは、っ!」
 反論しようとイツキに近づいたあの子は、思い切りイツキに腹を蹴られた。
「うぜえんだよ。目も潰してやろうか?」
 そう言いながら、顔を殴るイツキ。
 どんどんはがれていく無表情に私は興奮した。混乱に、恐怖に歪んでゆく。
「う、ぁっ」
 イツキは手も脚も休めることはなかった。一対一なのに、一方的な暴力。
 あの子のうめき声が聞こえなくなった時、さすがに私は声をかけた。
「ストップ」
 その一声だけでこの場に沈黙が落ちる。
「何、そんなにキレてるの? 死んじゃうよ、オリハラさん」
「別に、いいよ。あゆは折原に興味を持ったんでしょ」
 潰さなきゃ、あゆはまた折原を見る。
 そう言って泣きそうになったイツキをこちらに呼び寄せた。
 可愛い、可愛い、イツキ。
「イツキ大好きだよ。一番好き」
「……捨てないで」
「もちろん」
 私はイツキの頭を撫でながら、オリハラさんを見た。
「気分はどう?」


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