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夏休みに入った。 さすがに皆が遅くまで残るようになり、唯一の男子の紺野くんはしぶしぶといった感じだったが、毎日私たちと一緒に下校してくれた。 人数が少ないからか、私たちは学年関係なく仲がよく、今もわいわいと談笑している。 「本当、部活後なのに元気ですね……」 「まあ、女の子だから」 部活で疲れているのにも関わらず、止まることのない会話に紺野くんは聞いているだけで余計疲れてしまったようだ。 「そういえば、紺野はさ、彼女とかいないの?」 一年の何気ない一言で皆の注目が紺野くんに集まる。 「生意気だけど、顔はいいしねえ?」 「何だかんだ遅くなるとうちらと帰ってくれるし」 「実際モテるでしょ?」 紺野くんは黙っている。 何か言えないことあるのかと、少し寂しさを感じた。 ふと周りを見ると、三年の一人――未帆が何故か私を見て、にやにやと笑っていた。 ……何? 皆につられて紺野くんをじっと見ていると、紺野くんは諦めたのかため息をついた後に話しはじめた。 「そんなんでもないですよ」 「ふーん、じゃあ告られたことは?」 「まだ一学期終わったばっかですよ? あるわけないじゃないですか」 「なーんだ、つまんない」 「……後輩で遊ぶの止めてください」 「はいはい。……ねえ、紗季は最近何かあった?」 「へ?」 今まで黙っていた私に急に話がふられて、驚いてしまった。 すると、可愛い! と叫ばれ抱き着かれた。 え、ちょ。疲れて目がおかしくなった……? 「やっぱ、男になんか渡したくない! 紗季、誰とも付き合っちゃだめだからね!」 「え、あ、うん?」 なんだか暴走をし始めた未帆に加えて、後輩まで「先輩可愛いです!」とか言いはじめる始末。 馬鹿にされてる? 助けを求めようと紺野くんを見たら、少し不機嫌そうで何も言えなかった。 それどころか目が冷たく見えて、私は情けないけれど、泣きそうになってしまった。 「先輩」 「……何?」 「先輩は、よく告白されるんですか?」 「……どうだろう」 紺野くんの不機嫌な声に少し緊張しながら、言葉を紡ぐ。 「一学期は一人だけだったけど……」 「あれ、メールしてた子?」 もう一人の三年――史緒に言われて、記憶をたどる。 そう言えば、メアド聞かれてその後メール送ってきた人がいたような……。 「……えーと、多分違う。その人はメール返すの忘れちゃって気まずくて、何となく避けちゃってる」 あー、そいつかわいそー。 未帆が何故かそんなことを言っていた気がするけど、それよりも紺野くんが気になった。 なんかカンに障ったのだろうか。 少し未帆と史緒に隠れながら、紺野くんを見る。 「あのさ、メールしてたり告ってきた奴と紺野だったらどっちがかっこいい?」 「え?」「は?」 未帆の突拍子がない問いに私と紺野くんは同時に声を上げた。 「何聞いてるんですか」 「いーじゃん。ね、紗季」 「う、うん」 「でどーなの?」 「紺野くん」 私は即答した。 だって、顔もそうだけど部活やってる時は本当に目が離せなくなるくらいかっこいいし。性格もなんだかんだいい子だし。 「だってさ。紺野くん?」 「っるさいですよ、先輩!」 未帆がにやにや笑いながらそう言って、紺野くんは手で顔を隠しながら動揺していた。 よく見ると顔が赤い気がする。 なんか後輩だからか、可愛くもあるなあと思った。 とりあえず、さっきの怖い感じの不機嫌ではなくなっていて、ほっとした。