あっという間に大会当日がやって来た。
 後輩に見守られながら、大会が始まる。
 もちろんその中に紺野くんもいて、どうして自分がここに立っているのだろうと思った。
 胸の奥に鈍い痛みが走る。
「紗季、行くよ」
「うん」
 史緒に声をかけられて、意識を集中する。
 今は、前だけを見よう。





 数時間後、私たちは後輩たちに押し潰されていた。
「先輩、かっこよかったです!」
「一番上手かったよね!」
「おめでとうございます!」
「次も頑張ってください!」
 それは大会が終わり、ミーティングを行おうとしていた時だった。
 後輩の反応どおり、私たちは地区大会を抜け県大会に行けることになった。しかも、ぎりぎりとはいえ一位通過だ。
 素直に嬉しくて、だらし無い顔をしているんだろうなと鏡を見なくてもわかった。
「今年は行けるかとちょっと期待してたんだ。ついでに関東行く気で頑張れ」
「先生、お祝いの言葉ないのー?」
「関東は飛びすぎでしょ」
「……先生の期待に応えられてよかったです」
 上から、顧問の先生、未帆、史緒、私だ。
 いつも放任な顧問だから、ほとんど関わったことがない。
「祝いは大会が全部終わった後だ」
 にやっと楽しそうに笑う先生がなんだかかっこよかった。
 関わったことはないけど、良い先生なのは知っている。大会終わった後は必ず何かしてくれるし、部活を時々遠くから見ているのだ。
「じゃあ次の大会は三日後だからな、気合いいれとけよ。明日も八時集合だ」
「はーい」
「りょーかい」
「先生が寝坊するなよ!」
「お前らが寝坊しなければな。よし、今日は解散」
 そう言うと先生は颯爽と帰っていった。私たちの挨拶には軽く手を振るだけ。
 なんだか不思議な先生だ。
「ほんと、かっこつけだよね」
「私、担任なんですけどいろいろ凄いですよ」
「想像がついて嫌」
「ですよね。ただ授業はかなりわかりやすいんですよ」
「へえ」
「この前なんですけど……」
 未帆と後輩が楽しそうに話しはじめたが、このままじゃいつまでも話している気がしたから、私は止めなきゃなあと思った。そうしなきゃ、帰れない。
「いつまで話してるんですか、帰りますよ」
 私が口を開こうとした瞬間、紺野くんが話し出した。
 そういえば、さっきから紺野くんは一度もしゃべっていなかった。
「はいはい。皆歩けー」
 未帆の合図で私たちはゆっくりと駅に向かいはじめた。

「紺野ぉ、うちらになんか言うことないの?」
「…………」
 嫌そうに顔をしかめる紺野くん。
 何だろう?
「ほら、素直にいってみ?」
「……おめでとうございます。すごかったですよ」
 私は思わず目を見開いた。
 紺野くんはお世辞を言わない。だから、この言葉も本心だろう。
 やばい、嬉しい。
「俺が大会に出れないんだから、きちんといい成績とってくださいね」
 挑発的に言う紺野くんに未帆と史緒は文句を言っていた。
 その言葉を聞いて、私は体が重くなるような感覚に陥る。
 やりきれない気持ちがどうしても捨てきれていないんだ、と実感した。





 県大会はすぐにやってきた。
「久しぶりの県だ。楽しんでこい」
「「「「「「はい!」」」」」」
 周りの学校がピリピリしている中、私たちは楽しそうにはしゃいでいた。こんなところが良いと思う。
 私はそんな中で妙な緊張感に襲われていた。


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