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「あのさ」 「何?」 あの日以来、話しかけたら必ず返事をしてくれるようになった。 ……顔が緩むのを止められない。誰かと話すだけでこんなに幸せになれるなんて、今まで知らなかった。 「律は、あのグループ嫌い?」 あたしはいつもつるんでいる子たちの方に目を向けた。 律と行動するようになってからも、あの子たちとお昼を食べているし、疎遠になったりはしていない。 けど、やりにくいなあとも少し思うわけで。 「……嫌いとまでは言わないけど、苦手。仲良くできないだろうなと思う」 あたしはその言葉を聞いて――安心した。 「そう思っているのに悪いんだけど、一緒にお昼食べない?」 いつもならこんな無理強いはしない。あたしは我が儘になってしまったみたいだ。 「…………、そっちがいいのなら」 「ありがと! 聞いてみるね」 これであの子たちとも仲良くしながら、律ともいられる。 実はあの子たちとも仲良くなってしまうんじゃないかと思ったけど、それもなさそうだし。本当、友達を作ってほしくないと思うなんて、最低だと思うけど。 それほどまでに、あたしは律に執着していた。 バレたら嫌われるかな……。 そもそもあたしは律の寂しさを紛らわすだけの道具で好かれているか分からないけど、捨てられるなんて想像したくなかった。 お昼休みになると、いつものように教室の隅に人が集まりはじめた。 授業からの解放感のせいか、普段より大きめの声でおしゃべりをしている。 その中であたしは控えめな声量で言葉を発した。 「今日から律も一緒に食べていい?」 「いいよー」「うん」「早く食べよ!」 皆の声量の方が大きかったはずだけど、皆にあたしの声は聞こえたらしく、全員がこちらを向いて頷いた。 ついこの間までいじめていたから嫌な顔をする子もいると思ったのに、そんな子は一人もいなかった。 ころころ態度を変える皆が少し怖く感じてしまった。 ……もしかして、皆も律と話したかったの? そう思うと、今度は気分が悪くなった。 あたしは誰かと律が話しているところを見たくなくて、いつもよりも皆に話しかけた。逆に、律にはまったく話しかけなかった。 一目見れば、いじめに見えたかもしれない。 律から皆に話しかけることはないし、皆もあたしと会話をしたりして、律に目を向けることはなかった。 そのことに、内心喜んだ。あたしが律を独占しているんだ。 律に目を向けずにずっと皆と話していたら、後ろに着いていた手を軽く握られた。 冷たくて、細い律の手。 あたしはそれを見ることはなかったけど、強く握り返した。 寂しさならいくらでも紛らわしてあげるから。 逃げないで、捨てないで。 そう強く願った。 それからはあっという間だった。 三学期に入って、あたしたちは仲の良い二人組と認識されるようになった。相変わらず律はクラスに馴染もうとせず、友達と呼べるのはあたしだけだったけど。 あたしはそんな日常に満足していた。