君だけを(全1ページ/BL/幼馴染/大学生/嫉妬/微ヤンデレ?/ハル視点)
風邪を引いた。 その事自体は別にいい。情けないが、そんなに珍しいことでもないから。 ただ、タイミングがよくなかった。 今日は久しぶりにリョウタと出かける日だった。大学生になって会う機会が減ったから、楽しみにしていなかったわけがない。 ため息を吐かずにはいられなかった。 うまく動いてくれない体をなんとか動かして、携帯を手にする。着信履歴の一番上にある名前を押すと、軽快な音楽が流れてきた。 『はい』 「もしもし」 『ハル? おはよ!』 「おはよう」 テンションが高いリョウタに対して、風邪を引いたとは言いにくかった。 もう何度目だろうか。 数えきれないほど、自分の体の弱さを恨んだ。 『ハル、風邪引いた?』 「え、どうして?」 クエスチョンマークはついていたけれど、リョウタの言い方は断言に近かった。 『秘密。今から行くよ』 「……ごめん」 数分もしないうちにリョウタがやってきた。 「あー、結構ひどそうだね」 心配そうに俺の顔を覗き込むリョウタ。 「…………」 「…………」 なんとなく気まずくて、口を開けなかった。 「別にハルが悪いんじゃないけどさ、やっぱ出かけたかった」 大学生になってすねることも減ってきたリョウタだったが、こればかりはしょうがないだろう。軽く頬を膨らましていた。 「悪い」 今日ばかりはリョウタに頭があがらないだろうなと思った。 「ハル」 気がつけばリョウタが目の前にいて、無感情な目で見つめてきた。 急にいつものリョウタがいなくなったような気がして、不安に目が揺れる。 「なんで昨日帰り遅かったんだよ?」 「……友達と遊んでて」 きっとリョウタは俺が帰ってくる所を見たのだろう。 なんとかして早く抜けてきたけれど、それでも十一時は回っていて、断ればよかったと後悔した。 「お酒の匂いも少しするし、飲んだ?」 「少し」 「ハルさ、お酒飲むと風邪引きやすくなるのに」 「…………」 俺は何も言えなかった。熱で頭も回らない。 「誰といた?」 「……トモ、とか」 その瞬間、リョウタの顔が歪んで、思い切り抱きしめられた。 痛い。 息が苦しくなるほど、リョウタは力を込めていた。 「俺よりトモが大切なんだ?」 力を緩めずに言うリョウタに、俺は返事を出来なかった。声が出せない。 「昨日、すっげー楽しみにしてたのにハル、帰り遅いし。絶対風邪引くなあと思った」 俺だけ楽しみにしてたみたいで馬鹿みたいだよ。 そう冷たい声で言ったはずなのに、次の瞬間楽しそうに笑いはじめた。 「そうだ、ハルがずっとココにいればいいんだよ。そうすれば、ハルは風邪引かないし、俺はいつでも会える」 ようやくリョウタが俺を解放すると、思い切り咳込んだ。 「……っ、はっ……」 うまく息が吸えない。 「でも、トモは会いにくるか」 リョウタはいつもの拗ねた時の顔をした。 「トモなんて、死ねばいいのに」 軽い口調で残酷なことをいうリョウタの腕を掴む。 「……、………」 そんなこと言うな。 そう言いたいけれど、なかなか息が整わなくて伝えられない。 「何? ハルはトモに死んでほしくない?」 今まで聞いたことがないような優しく甘いリョウタの声。 でも、その言葉に含まれている真意は真逆だった。 「……りょ、…た」 なんとかして出した声は、かすれていて情けなかった。 「トモは、どうでもいい、から」 それでも必死に伝える。伝えなきゃ、いけないから。 「責めるなら、俺を、責めろ、よ」 風邪を引いたのは、俺の責任。リョウタと今日出かけることを分かった上で、大丈夫だろうと高をくくった。 「今は二人で、いるんだから、トモは関係、ない、だろ?」 「ハル」 「何?」 そう問い掛けるとリョウタは再び抱き着いてきた。 今度は壊れ物を扱うかのように、最低限の力でだった。 「はる、はる、はる」 狂ったかのように俺の名前を連呼するリョウタを抱きしめかえした。 「何かしなくても、俺はいつでもリョウタの隣にいるから」 昔からの俺の指定席。誰にも取られるつもりはない。 「俺はハルが、ハルだけが好きだから」 そう恥ずかしそうに言ったリョウタを抱きしめたまま、俺は眠りについた。
元は呼んで/呼ばないでの翔太と玲のIF話でした。ハル=玲、リョウタ=翔太、トモ=貴 です。うっかりヤンデレにしたくなるのはいつものこと。