下駄箱に(全1ページ/友達以上恋人未満/高校生)


 あたしのクラスには"アイドル"がいる。
 実際にテレビとかに出てるわけじゃないけど、男の子にも女の子にも可愛いと言わせるような女の子がいる。
 そんな子がいるクラスが校庭で体育。
 こんなときはいつも、校舎から何人もの視線を感じるんだ。
 けれど、今日は露骨だ。どうやら、あいつのクラスが自習らしい。
 何人もの男子と数人の女子がかわいいー! と叫びながらこちらを見ていた。
 確かにふわふわしてて、女の子って感じ。
 あの子の番になった。心なしか、周りが少し静かになる。
「よーい、スタート!」
 フォームが綺麗なわけでも、特別速いわけでもない。
 けれど、必死にハードルを飛び越える姿に思わず、見とれてしまった。
 そんな時、
「ぎゃっ!」
 あたしは無様に石に躓いて転んだ。
 皆、あの子に集中してて誰にも見られていないのが幸いだった。
 ……と思ったら、遠くからかすかに聞こえる笑い声。
「あいつ……っ!」
 自習クラスを見上げると、あいつは楽しそうに笑っていた。
 む、むかつく……。
 思わず睨むと、見下すように笑ってきた。
 あー、凄く見下してやりたい。なんでいつもあたしが、見上げなきゃなんないの。
 縮め。
 そう呪っているうちにチャイムが鳴った。


*


 窓側は人気のあるところだ。
 だけど、これは群がりすぎじゃね?
「"アイドル"の力、すげーな……」
「お前、興味ないのか」
 隣の奴はいかにも"興味ありません"って顔でこちらを見てくる。
「いや、そんなことはない」
 だって、可愛いしさ。こうさ、ふわふわしてて女の子ーって感じじゃん。
 見てるだけで、癒されそうだよな。
 そんな感じのことを隣の奴に話してたら、どこからか賛同の声が聞こえた。
「だよなー!」
「みたことない奴は結構疑うけど、見ちゃったら納得するよな」
「絶対、彼氏いるよなあ……」
「うらやましいよな。きっと筋肉つきまくりの俺らと違って、身体もふわふわしてんだろーなあ……。抱きついたら、気持ちよさs「「変態」」
 隣の奴と俺の声が見事にハモった。
 まあ、実際そうなんだろうけど。
 ……そういえば、あいつも一応女の子、か。
 あいつがふわふわしてるとかわかんねー。想像できねー……。
 そうしてるうちにあいつを見つけた。
 多分、あいつもアイドルに見とれてるな。
 女の子、かあ……。
 そんな柄でもないことを考えているとき。
「ぎゃっ!」
 あいつは無様に転んだ。
「――っ、はははははっ!」
 なに考えてんだか。あいつはあいつじゃん。
 睨み付けてきたから、ニヤッと笑ってやった。
「……何、急に笑い出してんだよ」
 隣の奴にも睨まれた。
「何でもない。ちょっとやることできたから、いってくるわ」


*


 あいつは楽しそうな笑みを浮かべて出て行った。
「あの子関連だろうな……」
 隣の友人はため息をついた。


*


 教室に戻るとき、下駄箱には"バーカ"とかかれた絆創膏があったとか。


終|下駄箱に|壁越しに教室で中庭でhome