夏休み(全2ページ/幼馴染カップル/高校生)


 夏休みに入った。
 あたしは既に部活を引退していて、毎日勉強している。
 それに対して、貴は部活を続けていた。何かの代表選手に選ばれて、合宿に行っている。
 ――羨ましい。
 こうして勉強している間、貴は体を動かしているんだ。あたしもバスケをしたい。
 いろいろ考えているうちに勉強する気が失せてしまい、あたしは寝転んだ。
 視界に入ったのは壁にかかったカレンダー。
 そこには『8』と書かれていて、八月に入っていることに気づいた。
 かれこれ貴には二週間会っていなかった。


 それから更に一週間。
 あたしはイライラしていた。
「……わかんない」
 元々頭のいい方ではないのだ。考えれば考えるほど、答えから遠ざかっていく気がする。
 そんな時、チャイムの音が聞こえてきた。
「こんな暑いときになんだよ、もう」
 あたしは適当に髪を整えて、玄関に向かう。
「どちら様で……」
 ドアを開けた瞬間、あたしは固まってしまった。
 なんでいるの?
「久しぶりなのにその反応はなくね?」
 そこには前に会った時よりも日に焼けた貴がいて、楽しそうに笑っていた。

「今、帰ってきた?」
「ああ」
「臭い、風呂入れ」
「ひどっ」
 とりあえず家の中に貴を入れた。
 ジャージ姿で本当に帰ってきたばかりなのが分かる。
 あたしはバスタオルを探して、貴に投げつけた。
「着替えはどっかにあるから」
「了解。風呂借りる」
「ん」
 脱衣所の方で少し物音がした後、シャワーの音が聞こえてきた。
 着替えは貴が家に入り浸ってるうちに常備されるようになった。おかしなことなんだろうけど、ずっと前からだから感覚が麻痺してしまった。
 あたしは飲み物を持って部屋に戻ると、冷房の温度を少し下げた。
「はあ」
 いつの間に戻ってきたんだか。
 来るなら連絡くらいよこせと思ったが、よくよく考えてみれば、あたしは今日一度も携帯に触れていなかった。
 確認してみると、一時間程前に貴からメールが届いていた。
「あーあ」
 最近ぼーっとしている。暑さのせいなのか、自分でもよく分からなかった。
 暑さには強いつもりだったんだけどな……。
 そんなことを考えていると、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
「あがった」
「あー、適当に飲んでいいよ」
「サンキュ」
 貴は当たり前のようにあたしの部屋に入ってくると、あたしの正面に座った。
 ああ、勉強しなきゃ。
 あたしはふと我に返って、目の前の課題を凝視した。今ならできる気がする。
 そう思って解こうとしたが、やっぱり無理だった。確実にさっきよりは進んだと思うが、到底答えにたどり着く気がしない。
「なあ、貴」
「何?」
「ここなんだけど……」
 そうだ、いつもムカつくほど頭がいい貴に質問していたんだ。
「ああ、これは――」
 わかりやすい説明があたしの中にストンと入ってくる。
 あたしは貴をじっと見つめていた。
 この距離にいる貴が普通なんだよなあと、しみじみと思った。


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