2
「しの、聞いてた?」 「うん、ありがとう」 ほら、こうやってにやりと笑うのも相変わらずだ。 「オレの顔まじまじと見つめてたから、見とれてたのかと思ってさ」 「馬鹿じゃないの? 飽きるほど見てきた顔に今更見とれるなん……」 あたしが話している途中で貴はあたしの方へ手を伸ばした。 「何?」 その手はゆっくりと目尻を撫でる。 「俺の前以外で泣くなよ?」 「は? 何言って……、え?」 びっくりした。 本当にあたしは泣いていた。 わけが分からない。 いつの間にか貴が隣に来ていて、肩を抱かれた。 「何? 意味わかんな、い」 貴はそっと目尻にキスをして、涙を舐めた。 「やっぱ涙じゃん。寂しかったんだ?」 「さびしかった?」 勝手に出てくる涙が止められなくて、あたしは混乱した。 しかも貴がいると思えば思うほど、止まらなかった。 貴を見ると、嬉しそうな顔をしていた。 「三週間も会わないなんて初めてだったよな。連絡もしなかったし」 「……確かに」 貴がいないからって、不安にはならなかった。けど、どこか物足りなくて。 あたしにとって、貴は日常だったから。 「寂しかったけど、オレはしのの珍しいとこ見れて満足かな」 「あたしはもう、嫌だよ」 泣くなんて情けない。けれどもう一回同じことがあったら、また泣く気がしたから。 あたしは貴から顔をそらした。 「しの、こっち向けよ」 「無理。止まるまで待って」 「忍」 あたしは軽い力で貴に引っ張られて、しぶしぶ向きを戻した。 「ほんと珍しいよなあ」 「…………」 「俺の前だったら、いくらでも泣いていいのに」 その時の貴の顔は本気のような、からかっているような、どちらともつかない顔だった。 「……元々貴の前以外では泣いたことないから」 他人に泣き顔を見せるなんてごめんだ。 貴は少し驚いたような顔をすると、あたしを抱きしめてきた。 いつもより力がなくて、疲れているのが分かる。 「おかえり、貴」 「ただいま……」 あたしはそっと貴にキスをした。