テスト期間(全2ページ/幼馴染カップル/高校生)
いつも遅くまでやっている部活も、テスト一週間前になると自主練習になる。 今日はテスト前日で、自他共に認める部活バカのあたしでもさすがに放課後になると真っすぐ昇降口に向かった。でも、悪いことをやっている気分になる。自主練習なのだから、サボりでも何でもないのだけど。 校門に向かうと、そこには友達と楽しそうに話している幼なじみがいた。 あいつの友達、すっげー綺麗だな……。 制服から男子だとは分かるけれど、雰囲気が中性的というか、儚げだった。 対して、あたしの幼なじみは適度に筋肉がついていて、長身で、周りに言わせれば「男らしくて、かっこいい」らしい。全然分からない。 家が近いから、帰りに会ったら一緒に帰っていたけれど、今日はあの友達と帰るだろう。 あたしも誰か誘おうかなー。 そう思ったのは校門まであと少しの所。 誰かいないかと後ろを振り返る。 「早く来いよ」 その言葉が聞こえてきたのは後ろ、つまり校門の方から。 「……言われなくても」 声をかけられたことに少し驚いたけれど、あたしは当たり前のように幼なじみの所に向かった。 「じゃあな、玲」 「ああ」 綺麗な友達に別れの挨拶をすると、幼なじみはあたしと並んで歩きはじめた。 「オレのこと、見てただろ?」 「はあ? 自意識過剰もほどほどにしなよ」 歩きはじめてすぐ、あいつはにやにやしながら尋ねてきた。 「しのちゃんは、オレと帰れないと思って寂しかったろうに」 「…………殴ろうか」 「暴力はんたーい」 あたしはわざと大きくため息をついた。 「あたしが見てたのはあんたの友達だよ」 「へえ、惚れた?」 「綺麗だな、とは思った」 言葉遣いも汚いし、お世辞にも可愛いとは言えないあたしとは正反対だと思った。 「三年二組十番、佐々木玲。部活は無所属。見た目通り体が弱くて体力はないが、運動センス抜群なもったいない奴。 ――恋人あり」 勝手にその友達のことをべらべら話しはじめた幼なじみは、最後の一言をわざと強調した。 いや、好きなんて一言もいってねーから。 「……佐々木?」 あたしは簡潔に聞き返した。 「ああ、オレと血のつながりはまったくないよ」 幼なじみの名前は、佐々木貴。まさか同い年の兄弟がいるとは思わなかったけれど、一応聞いてみた。 「もしあの人があんたの兄弟だったら、絶対あっちと付き合ってたな……」 「いや、それはないな」 「あたしじゃ、無理だと?」 少しだけあいつを睨んだ。 「というより、あいつも幼なじみと付き合ってるから」 「あたしが知ってる人?」 「あー、男バスの翔太って分かる?」 「そりゃあ」 あたし、女バスだからわかりますよ。 「あたしより小さくて、可愛い子だろ?」 「ああ。そいつ」 「…………」 「…………」 「……翔太が何?」 「だから、玲は翔太と幼なじみで付き合ってんだよ」 「…世の中って分からないな……」 そういう人ももちろんいるのだろうけど、こんなに身近にいるとは思わなかった。 「思ったより驚かないな」 「あー、あたし女の子に告られたことあるから」 「オレの周り、なんか濃いな……」 「運がよかったと思え」 「まあ、楽しいからいいけど」 ここまで話して、あたしの家に着いた。 「勉強してく?」 「そうする。お邪魔します」 貴はあたしの家にあがると、まるで自分の部屋に行くかのように、あたしの部屋に向かう。 仮にも女の子の部屋に入るのだから遠慮はないのかとも思うけれど、今更遠慮されても気持ち悪いのも事実だ。 貴もそれが分かっているから、何も言わない。 「しのは何やる?」 「世界史」 「明日あるのか?」 「いや」 本音を言うと、テスト勉強なんてめんどくさいものはやりたくない。ただ、暗記教科だけは何もしないわけにはいかなかった。 ちなみに貴はテスト日程を把握していなかったが、こいつの場合は普段からまんべんなく勉強しているから把握する必要がないだけだ。むかつく。 「明日って、何がある?」 「化学、現代文、倫理」 「……化学だな」 そういうとあたしたちはテーブルを挟んで、勉強を始めた。