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オレたちは手を動かしながら、話していた。いつも二人で勉強する時はそんな感じだ。目を合わせないまま、止まることなく話しつづける。 「しの?」 「……あー、そうだな」 勉強をし始めてから一時間が過ぎた頃、忍の反応が鈍くなった。 少しだけ視線を上げると体を揺らしている忍がいた。 「なあ、しの。今日さ――」 オレは今にも眠りそうな忍に対して、少し長くなりそうな話をわざと話しはじめた。途中で手を動かすのを止めて、忍を見ながら話していたが、本人が気づく様子はない。 話が終わる頃には、もう忍は気持ち良さそうに眠っていた。 「部活必死にやって、授業も真面目に受けて、家でも勉強、とかできるわけないよな」 オレも部活を真面目にやっている方だと思うが、どう甘くみても忍と比べられるレベルではない。 さすがにベッドに運ぶと起きるだろうから、オレは自分の上着を忍に掛けて、こっそり部屋を出た。 * 「…………」 あたしは曖昧な意識の中、なんとか目を開けた。 寝てたのか……。 「ったく、寝そうだったら起こせって言ったのに」 あいつはこの願いを一度も聞いてくれたことがない。 体をゆっくりと伸ばすと、肩から貴の上着が落ちた。 そこで初めて部屋を見回す。 「……いないのかよ」 勝手に帰ったのか、となんとなく虚しくなるのを止められないが、そもそも勝手に寝はじめたのはあたしだ。文句を言える立場ではないだろう。 「…………」 「あ、しの」 「……は?」 ぼーっとしていたあたしは突然聞こえてきた声に驚いた。 「帰ったんじゃねーの?」 荷物もなかったし。 「バーカ。勝手にいなくなるわけないだろ」 「あっそ」 「確かに帰ったけど、勉強道具持ってきただけだ」 そういうと貴はまた同じ場所に座って、ノートを広げた。 「いつまでいる?」 「夕飯いつ?」 「あー、今日あたしが作るから食べてく?」 「すき焼き」 「チャーハンだ。文句あるなら帰れ」 「すみません。文句ありません」 その後はまた勉強して、言った通り夕飯を作って食べた。 「そろそろ帰る」 「ん」 貴がそう言ったのは、九時過ぎ。 玄関まで行くと、貴は振り返ってあたしに目線を合わせた。あたしは百七十センチを少し超えているくらいあるけれど、貴はあたしより十五センチくらい高いから割と屈んでいる。更に大きな手で頭を撫ではじめるから、あたしは子供扱いをされているみたいで不快だった。 「疲れたら、寝ろよ?」 その瞬間、貴はあたしに軽くキスをして、意地が悪そうに笑う。 「やっぱわざとか……!」 「何が?」 分かっているくせにとぼける貴。 「起こせって言っただろうが」 「まあ、確かにオレと話す時間減るけど」 そこじゃない。勉強時間の問題だ。 「無理して明日来れなかったら、元も子もないだろ」 「そんなに弱くない」 「はいはい」 貴は苦笑しながらあたしに背を向けて、歩きはじめた。 「またな」 そう言った貴にあたしは上着を投げつける。 「ありがと! また明日!」