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高校に入ってから、友チョコを大量にもらうようになった。けれど、あたしは甘いものが苦手だ。 そこであたしたちは協力して食べるようになった。申し訳ないけれど。 貴も甘いものが好きなわけではないが、成長期だからとりあえず大量に食べてくれる。 それにしても、今年は豪華だ。前日が休日だったからか、皆の気合いが半端ない気がする。 もちろん、あたしは作っていない。これ以上チョコが増えても迷惑なだけだ、正直。 あたしたちはひたすら食べていた。 ……気持ち悪い。 五つ食べたところであたしは死にそうになった。いくら飲み物を飲んでも、甘い味が消えない。 「あ、口直しする?」 貴は食べることを止めない。 「なんかあんの?」 「もちろん」 そういうと貴は冷蔵庫に向かった。 「じゃーん!」 自慢げに出されたソレを貴はテーブルにのせる。 「…………」 あたしは貴を思い切り睨んだ。 死んでしまえ。 「姉さんが作ってくれたんだ」 「…………」 目の前にあるのは真っ白なホールケーキだった。おそらく、ミルクチョコレートだろう。 「姉さん、食べないと悲しむよ」 楽しそうに笑う貴を殴ろうかと思った。 貴のお姉さんにはたくさん世話になっている。バレンタインデーだって、いるときは一緒に食べてくれるから、あたしは彼女に悪いことはできないのだ。 まあ、彼女自身甘党だからむしろ嬉しいのだろうけど。 「貴、甘いもの好きだっけ……」 いくら甘党のお姉さんだとしても、優しいから相手の好みで作ってくれる。だから、貴が甘党になったとしか思えなかった。 「好きだよ」 貴は目を細めて笑う。いつものからかうような笑顔ではなかった。 でも一瞬でいつもの笑顔に戻った。 「しののことはね」 「話すり替えるなよ……」 あたしは深くため息をついた。 「はいはい。甘いものは好きじゃねえよ」 「じゃあなんで」 「それ、コーヒー味だから」 貴はケーキナイフを取り出すと、綺麗に切りはじめた。 どうやら白かったのは表面だけだったようだ。中身は焦げ茶で、確かにコーヒーの匂いがしてきた。 「あと勘違いしてるみたいだけど、これしのの為だ」 「は?」 「『愚弟のために作るわけないでしょ』って言ってた」 あたしは声をだして笑った。 さすが、お姉さん。 「作ってる途中に邪魔でもしたの?」 「というより、共同製作だな」 「は?」 「もちろんミルクチョコレートコーティングは俺の案です」 「……死ね」 そう言いつつ、あたしはケーキに手を伸ばす。 口に入れるとコーヒーの苦みが広がって、今のあたしにはちょうどよかった。 「おいしい?」 貴もケーキに手を伸ばす。 「うん」 「じゃあ、姉さんにお礼言ってくれ」 「分かった。ちなみに貴はどれくらい作ったの?」 「あー……、姉さん監督、俺製作みたいな感じ」 「…………」 それ、貴にお礼言わなきゃじゃん。 「……ホワイトデー何欲しい?」 貴の方に視線をやると、口元に茶色い何かがついていて、あたしは手を伸ばしてぬぐった。 「ついてた?」 「うん」 あたしはぬぐったソレを舐めてみた。 「甘……」 どうやらコーヒーではなく、チョコだったようであたしは顔をしかめた。 「サンキュ。あと何もいらねえ」 「言うと思った」 バレンタインデーだって、ホワイトデーだって、一年三百六十五日の一日でしかない。どうせ作ったのだって、気まぐれだろう。 だからあたしも気が向いたら作ろう。 あたしは考えるのを止めて、再びテーブルに意識を戻した。 とりあえず、このチョコたちをどうにかしようか……。